1. 電界効果トランジスタ(FET)バイオセンサ

 がん,感染症,精神・神経疾患など多くの疾患には,特定のタンパク質などの生体関連物質の存在が関与していることが知られています.そういった病気の原因となる物質や病気になると現れる物質(バイオマーカー)の血液,尿,あるいは組織中の濃度を測定するバイオセンサの開発は,高度医療診断・臨床検査や健康管理・予防医療に役立つ計測機器の根幹として非常に大きな意味を持ちます.当研究室では,高感度化に加え小型化や集積化にも利点を有する電界効果トランジスタ(FET)を基幹デバイスとし,界面ナノ設計に基づく高性能なバイオセンサの提案と開発を行っています(図1-1).


図1-1 当研究室で開発を進めるFETバイオセンサ.


 FETバイオセンサは,半導体素子であるトランジスタのゲートを認識・検出場とし,その絶縁膜表面に吸着した検出対象物質の電荷を検出するデバイスであり,ゲート絶縁膜表面の分子修飾(例えば抗体や糖鎖の固定化)によって,デバイスの基本設計を変更することなくさまざまな生体関連物質(ただし測定条件下で電荷を有する物質)の認識・検出を行うことができます.例えばゲート絶縁膜表面にアミノ基を末端に有する単分子層を形成することで,対象に応じたプローブ分子の固定が可能となります(図1-2).認識・検出場であるゲート絶縁膜/溶液界面のナノ〜メソ領域での設計,つまり,対象分子の大きさや測定溶液のイオン強度を考慮したプローブ分子の選択や固定化条件の最適化(2次元的分子配列やナノ構造の制御)を行うことで,検出感度や再現性・安定性の向上を達成しています.また,侠雑物の影響を除去する手法を検討しています.



図1-2 FETバイオセンサ構築に向けた界面ナノ設計.


 ゲート絶縁膜上に固体されたプローブ分子との特異的な相互作用に基づく測定対象物質の吸着(あるいは結合)は,その電荷に起因するFETデバイスの電気信号(ドレイン電流−ゲート電圧特性の変化)として検出されます(図1-3).



図1-3 生体分子の添加前後におけるFETデバイスのId-Vg特性.


 これまでに,抗体あるいは抗原結合性フラグメントをプローブとした腫瘍マーカーの検出, 抗原を固定化した系での免疫グロブリンEの高感度検出,糖鎖をプローブとしたインフルエンザウイルスヘマグルチニンの検出とその亜型の識別,コンゴーレッドを固定化した系でのアミロイドの検出,などを実現しています.これらの成果をがん,アレルギー,感染症,精神・神経疾患などの早期発見やメカニズム解明に役立てられるよう研究を進めています.

関連論文

・ 逢坂哲彌, 黒岩繁樹, 秀島 翔, 中西卓也, “電界効果トランジスタを用いたマイクロセンサ −pHセンサからバイオセンサまで−”, 化学センサ(Chemical Sensors), 28, 1, 8-15 (2012).

・ S. Hideshima, R. Sato, S. Kuroiwa, T. Osaka, “Fabrication of Stable Antibody-Modified Field Effect Transistors Using Electrical Activation of Schiff Base Cross-linkages for Tumor Marker Detection”, Biosens. Bioelectron., 26, 5, 2419-2425 (2011).

・ S. Hideshima, R. Sato, S. Inoue, S. Kuroiwa, T. Osaka, “Detection of tumor marker in blood serum using antibody-modified field effect transistor with optimized BSA blocking”, Sens. Actuators B, 161, 1, 146-150 (2012).

・ S. Hideshima, S. Kuroiwa, M. Kimura, S. Cheng, T. Osaka, “Effect of the size of receptor in allergy detection using field effect transistor biosensor”, Electrochim. Acta, 110, 146-151 (2013).

・ S. Hideshima, H. Hinou, D. Ebihara, R. Sato, S. Kuroiwa, T. Nakanishi, S.-I. Nishimura, T. Osaka, “Attomolar Detection of Influenza A Virus Hemagglutinin Human H1 and Avian H5 Using Glycan-blotted Field Effect Transistor Biosensor”, Anal. Chem., 85, 12, 5641-5644 (2013).

・ S. Hideshima, S. Wustoni, S. Kuroiwa, T. Nakanishi, A. Koike-Takeshita, T. Osaka, “Monitoring Amyloid Sup35NM Growth with Label-Free Electrical Detection Using Field Effect Transistor Biosensor”, ChemElectroChem, 1, 1, 54-58 (2014).

・ S. Hideshima, M. Kobayashi, T. Wada, S. Kuroiwa, T. Nakanishi, N. Sawamura, T. Asahi, T. Osaka, “Label-Free Electrical Assay of Fibrous Amyloid β Based on Semiconductor Biosensing”, Chem. Commun., 50, 26, 3476-3479 (2014).

・ S. Cheng, K. Hotani, S. Hideshima, S. Kuroiwa, T. Nakanishi, M. Hashimito, Y. Mori, T. Osaka, “Field Effect Transistor Biosensor Using Antigen Binding Fragment for Detecting Tumor Marker in Human Serum”, Materials, 7, 4, 2490-2500 (2014).

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2. 磁性ナノ粒子のバイオ・医療応用

 近年,ナノ粒子のバイオ・医療分野での利用(バイオセンシングや医学的診断や治療への利用)が注目され,例えば磁性酸化鉄マグネタイト(Fe3O4)ナノ粒子に関しては,その粒径と磁気特性,また,生体適合性や安全性の観点から,磁気力を用いた薬物伝達システム(DDS)のためのキャリアや,磁場誘導加温型のがん温熱療法(磁気ハイパーサーミア)における発熱体,磁気共鳴画像(MRI)診断の造影剤をはじめとする治療や診断に適した材料として期待されています.ここで,その実際の応用を考えた場合には,用途に応じた粒径や磁気特性,さらには表面状態の制御が重要となります.

 当研究室では,塩化鉄あるいは硫酸鉄を出発物質とし,有機アミンを塩基とした水相での化学反応において,Fe2+とFe3+の添加量比を調整することによって,得られるマグネタイトナノ粒子の平均粒径を10〜40 nmの範囲で制御することに成功しました(図2-1).これに伴って飽和磁化や保磁力といった磁気特性の制御(常磁性的な挙動を示すものと強磁性的な挙動を示すものの作りわけ)が可能となり,用途に応じたマグネタイトナノ粒子の合成と利用が期待されます.




図2-1 粒径を制御したマグネタイトナノ粒子の合成.


 合成したマグネタイトナノ粒子のバイオ・医療応用の可能性を探るため,主に磁気ハイパーサーミア(がん温熱療法)への応用を目指した評価を,細胞への取り込みを軸として行いました.これまでに,合成条件の選択によるナノ粒子/溶液界面特性,特にゼータ電位の制御が,ナノ粒子の乳がん細胞への取り込み効率の向上に繋がること(図2-2),粒子を添加した乳がん細胞において交流磁場下での粒子発熱に伴い細胞死滅率が上昇すること,などが確認されています.




図2-2 正電荷(左)および負電荷(右)を有するマグネタイトナノ粒子の乳がん細胞への取り込み.


 さらに,安全性の観点から粒子取り込みが細胞機能に与える影響に関する評価にも取り組む一方で,粒子添加が特異的に細胞死を誘導する系に関してはメカニズムの検証も進めています.

関連論文

・ H. Iida, K. Takayanagi, T. Nakanishi, T. Osaka, “Synthesis of Fe3O4 Nanoparticles with Various Sizes and Magnetic Properties by Controlled Hydrolysis,” J. Colloid Interface Sci., 314, 1, 274-280 (2007).

・ H. Iida, K. Takayanagi, T. Nakanishi, A. Kume, K. Muramatsu, Y. Kiyohara, Y. Akiyama, T. Osaka, “Preparation of Human Immune Effector T Cells Containing Iron-Oxide Nanoparticles,” Biotechnol. Bioeng., 101, 6, 1123-1128 (2008).

・ T. Osaka, T. Nakanishi, S. Shanmugam, S. Takahama, H. Zhang, “Effect of Surface Charge of Magnetite Nanoparticles and Their Internalization into Breast Cancer and Umbilical Vein Endothelial Cells”, Colloids Surf. B, 71, 2, 325-330 (2009).

・ D. Baba, Y. Seiko, T. Nakanishi, H. Zhang, A. Arakaki, T. Matsunaga, T. Osaka, “Effect of Magnetite Nanoparticles on Living Rate of MCF-7 Human Breast Cancer Cells”, Colloids Surf. B, 95, 254-257 (2012).

・ C. Shundou, H. Zhang, T. Nakanishi, T. Osaka, “Cytotoxicity Evaluation of Magnetite (Fe3O4) Nanoparticles in Mouse Embryonic Stem Cells”, Colloids Surf. B, 97, 221-225 (2012).

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3. 光電変換デバイス(太陽電池)正極

 色素増感太陽電池に用いられる正極は,光励起した電子を酸化チタン(TiO2)に注入することで酸化された色素を,電解液に含まれるレドックス対(I3-/ I-)を介して還元する役割を担っており,一般的には白金が用いられています.当研究室では,正極/電解液界面のナノ構造・ナノ形状と界面における三ヨウ化物イオン(I3-)およびヨウ化物イオン(I-)の物質移動や吸着挙動の観点から,太陽電池特性の向上に取り組んでいます.

関連論文

・S. Kuroiwa, A. Kyan, T. Ito, N. Komatsu, T. Nakanishi, T. Osaka, “Effect of Synthetic Quartz Particle-Supported Counter Electrode on Dye-Sensitized Solar Cell”, Electrochemistry, 82, 3, 165-167 (2014).

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