1. リチウムイオン二次電池用Sn系負極

 リチウムイオン二次電池は他の二次電池と比べ,1) エネルギー密度が高い(電池そのものの小型化・軽量化が可能),2) 動作電圧が高い(少ないセル数で大きな出力が得られ,機器の小型化・軽量化が可能),3) メモリ効果がない(継ぎ足し充電が可能),4) 安全性が高い(過充電に強い,熱的安定性が高い),5) 寿命が長いといった特徴をもちます.このため,リチウムイオン二次電池の更なる高性能化により「はじめに」で述べられているような市場のニーズが満たされる可能性は非常に高く,これまでも世界各国でその開発研究が進められてきました.

 現在リチウムイオン二次電池の負極として実用化されている炭素(理論容量:372 mAh/g)よりも高いエネルギー密度を有するSn(理論容量:994 mAh/g), Si(理論容量:4200 mAh/g)が新規負極材料として注目を浴びています.しかし,これら電極材料は充放電時にLiと合金化・脱合金化する際に大きく体積が変化し,電極内部が崩壊・欠落するため,電極寿命が非常に短いことが大きな問題となっています.この問題を解決するため,我々はSnについて,合金化,また多孔質構造を付与するといった2つのアプローチを行っています.また,Siについて,電気化学的作製手法の検討を行っています.


1.1 Sn-Ni合金負極

 上記の問題の解決案の一つとして考えられているのが「体積変化による電極の崩壊・欠落を緩和し,電極の長寿命化に寄与するようなマトリクス」を付与したSn系化合物をSn単体の代わりに利用することです(図1-1-1).


図1-1-1 SnおよびSn合金系負極材料の充放電時の様子.


Snを第三元素と合金化したSn合金系負極材料はこの「マトリクス」が原子レベルでSnと混合した状態であるため,より効果的にに電極の崩壊・欠落を防ぐことができると期待されます.さらに,充放電時にLiイオンが電極と余計な副反応を起こさないためにはマトリクスとして「Liと合金化しない金属」を用いることが重要だと考えられます.NiはLiと合金化しない金属であり,またSnと合金化させる手法が既に確立されている扱いやすい元素です.過去にもSn-Ni合金負極を用いた検討例はいくつもあり,そこでは確かに負極の寿命が合金化によりスズ単体より延びることが報告されています.しかし,エネルギー密度が低く未だ炭素を超えるような新規材料としての報告はされていません.そこで,我々は電析めっき法により電極中のSnの含有量を制御することにより,高エネルギー密度でかつ長寿命の負極材料を作製することを目的とした研究を行っています.

図1-1-2に我々が作製した電極の負極特性を示します.「54 at.% Sn」などの各プロット名はその電極中のSn含有量を示しています.このグラフから,どのサンプルも充放電に伴うエネルギー密度の減少が小さく,特に62 at.%Snという組成のSn-Ni合金は炭素の理論値を上回る負極特性を有することが示されました.4種類のSn-Ni合金の中で62 at.%Snだけがこのような良好な特性を示した理由には,XRD測定の結果から,その結晶構造が寄与しているものと考えています.



図1-1-2 作製サンプルの負極特性.


関連論文

・ H. Mukaibo, A. Yoshizawa, T. Momma, T. Osaka, "Particle Size and Performance of SnS2 Anodes for Rechargeable Lithium Batteries", J. Power Sources, 119-121, 60 (2003).

・ H. Mukaibo, T. Sumi, T. Yokoshima, T. Momma, T. Osaka, "Electrodeposited Sn-Ni Alloy Film as a High Capacity Anode Material for Lithium-Ion Secondary Batteries", Electrochem. Solid-State Lett., 6, A218 (2003).

・ H. Mukaibo, T. Momma, M. Mohamedi, T. Osaka, "Structural and Morphological Modifications of Nanosized 62 Atom% Sn-Ni Thin Film Anode During Reaction with Lithium", J. Electrochem. Soc., 152, A560 (2005).

・ H. Mukaibo, T. Momma, T. Osaka, "Changes of electro-deposited Sn-Ni alloy thin film for lithium ion secondary battery anodes during charge discharge cycling", J. Power Sources, 146, 457 (2005).

・ H. Mukaibo, T. Momma, Y. Shacham-Diamand, T. Osaka, M. Kodaira, "In-situ Stress Transition Observations of Electrodeposited Sn-Based Anode Materials for Lithium Ion Secondary Batteries", Electrochem. Solid-State Lett., 10, A70 (2007).

・ J. Chen, S.J. Bull, S. Roy, H. Mukaibo, H. Nara, T.Momma, T. Osaka, Y. Shacham-Diamand, "Mechanical analysis and in situ structural and morphological evaluation of Ni-Sn alloy anodes for Li ion batteries", J. Phys. D: Appl. Phys., 41, 025302 (2007).

・ J. Chen, S.J. Bull, S. Roy, A. Kapoor, H. Mukaibo, H. Nara, T. Momma, T. Osaka, Y. Shacham-Diamand, "Nanoindentation and nanowear study of Sn and Ni-Sn coatings", Tribol. Int., 42, 779 (2009).

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1.2 メソポーラスSn負極

 Sn負極は「Sn-Ni合金負極」の項でも述べられているように,Snは充放電時の体積変化に伴う電極寿命の短さが大きな問題となっています.合金負極ではLiと合金化しない金属をマトリクスとすることによって,電極の崩壊・欠落を防ぐアプローチを行ってまいりました.本項では,Sn電極にナノオーダーの孔を有するメソポーラス構造を付与することによって,充放電に伴う電極の崩壊・欠落を防止するアプローチについて述べます.


図1-2-1メソポーラスSn負極の充放電時の様子(イメージ図).


 多孔質構造体の作製法の一つとして,界面活性剤を高濃度にした際に発現するリオトロピック液晶相(LLC)を鋳型として目的とする物質を電解析出させる手法が報告されています.我々はこの手法を用いて、メソポーラスSn負極を作製した結果,図1-2-2に示すように大きく充放電サイクル特性の改善に成功しました.これは,電極の多孔質による,比表面積の増大およびLiの固体内拡散距離の減少から得られたものと考えます.


図1-2-2メソポーラス構造導入と未導入Sn負極のサイクル特性.


関連論文

・ H. Nara, Y. Fukuhara, A. Takai, M. Komatsu, H. Mukaibo, Y. Yamauchi, T. Momma, K. Kuroda, T. Osaka, "Cycle and Rate Properties of Mesoporous Tin Anode for Lithium Ion Secondary Batteries", Chem. Lett., 37, 142 (2008).

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1.3 Si負極

 前述のとおり,Siが負極材料として適用可能なレベルまで研究開発がなされることで飛躍的な電池の高性能化が可能となります.そこで,問題点を解決すべく,合金化Si負極,導電材カーボン材料との複合体,薄膜アモルファスSi等,様々に研究開発が行われてきています.

 当研究室においても,これまでSn負極の研究において得られた知見を活かし,サイクル特性の改善,初期不可逆容量の低減を目的とし,電気化学的手法を用いたSi負極作成に取り組んでいます.
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2. リチウム金属二次電池用複合電解質


2.1 ポリマーゲル電解質

 リチウムは金属中で最もイオン化傾向が大きくて酸化されやすいため,これを電池の負極に用いると電圧の高い電池ができます.また,リチウムは単位グラム当たりに発生する電気量も大きいため,少ない量からたくさんの電気を取り出すことができます.このようにリチウム金属二次電池は非常に高性能ですが,安全性に問題があり,繰り返し充電して使っているとショートして発火してしまう恐れがあります.これは充放電を繰り返すと負極のリチウムが針状に成長し(これをデンドライト析出と言います),正極まで達してショートしてしまうという仕組みとなっています.現在はデンドライト析出を抑制するための研究が盛んに行なわれており,当研究室でも高分子ゲル電解質を用いてデンドライト析出を抑制する研究を行なっています.

 高分子ゲル電解質はポリマーマトリクス中に電解液を保持して高イオン導伝性を示し,電解質膜としての強度を有します.しかしリチウム金属二次電池に用いるために必要なイオン導伝率と機械的強度を同時に達成するのは困難とされています.そこで当研究室では,電解液を保持して良好なイオン伝導性を有するポリマーPolyethylene oxide(PEO)と,十分な機械的強度を有するポリマーPolystyrene(PS)の2種類をブレンドし,電池作動に必要なイオン導伝性と安全性の確保に必要な機械的強度を併せ持つ電解質の作製を行なっています.

 ポリマーブレンドという手法により,PEOとPSが微視的には相分離状態にあるが,その2相が互いにサブミクロンオーダーで絡み合い全体を構成している物質の作製が期待できます.この相分離構造をサブミクロンオーダーで制御することで,両ポリマーの特性を有する物質が得られると考えられます.我々はこの構造を「相互連続性のあるミクロ相分離構造」(図2-1)と呼んでいます.

図2-1 相互連続性のあるミクロ相分離構造モデル図.
図2-2 PSのSEM像.


 PEOとPSのポリマーブレンドにより得られた膜を水に浸漬させるとPEOのみが溶解します.PEOを除去してPSだけにしたものを走査型電子顕微鏡 (SEM)で観察するとミクロな多孔質の膜であることが確認できます(図2-2).この穴の部分は図2-1の赤い部分に相当し,膜内部で連続していると考えられます.

 このように良好な相分離構造の膜に電解液を含浸させてゲル電解質とし,イオン導伝率を測定すると,一般的に電池作動に必要とされている1 mS/cmに匹敵するイオン導伝率を達成していることが確認できました.このイオン導伝率は現在最先端の二次電池とされているリチウムポリマー電池に用いられているPVdF-HFPゲル電解質に近い値です.また,ポリマーブレンドゲル電解質は,電解質膜としての強度も有しています.しかし,良好な充放電を行うためにはより多くの電解液を保持する必要があることがわかりました.しかし,多量の電解液はPEOを溶かしPSの枠から流れ出てしまう恐れがあります.そこで,イオン導伝性を担うホストポリマーであるPEO部分にLiBF4を加えたPEO-LiBF4錯体を用いたポリマーブレンド膜を作製しました.PEO-LiBF4錯体とPSのポリマーブレンドゲル電解質を用いることによりPEOと比べ,より多く電解液を含む事が出来るようになり良好な充放電特性が得られるようになりました.また,この電解質は4.5Vvs.Li/Li+までの酸化に対する安定性を示し,4.2V級正極のLiCoO2を用いることができ高出力の二次電池の作製が可能となります.

 このポリマーブレンド法により作製された電解質膜は高いイオン導伝率と十分な機械的強度を併せ持つ電解質として,リチウム金属二次電への適用が期待されます.

 また,PSからPEOの流出を完全に防ぐためにPEO/PSジブロックコポリマーの研究を行っています.PEO/PSジブロックコポリマーとは図2-3に示すようなPEOの鎖とPSの鎖が共有結合でつながっているものです.


図2-3 PEO/PSジブロックポリマーモデル図.


図2-4 PEO/PSジブロックコポリマーゲル電解質のミクロ層分離構造.

 このPEO/PSジブロックコポリマーと電解液を溶媒に溶かして成膜するとPEO鎖はPEO同士,PS鎖はPS同士が自然と集まってPEOとPSがナノオーダーで相互連続性のある相分離構造(図2-4)が得られ,電解液はPEO相に取り込まれゲル電解質となります.このジブロックコポリマーを用いたゲル電解質膜もまた,室温で1 mS/cm以上という高いイオン導伝率を示しました.さらに,十分な機械的強度によるリチウム溶解析出サイクルによるデンドライト析出の抑制効果も確認されました.

 最近では,このジブロックコポリマーゲル電解質の安全性をさらに改善すべく,難燃性であるイオン液体を可塑剤とした試みも行っています.

関連論文

・ S. Passerini, F. Alessandrini, T. Momma, H. Ohta, H. Ito, T. Osaka, "Co-Continuous Polymer Blend based Lithium-ion Conducting Gel-Polymer Electrolytes", Electrochem. Solid-State Lett., 4, A214 (2001).

・ H. Ito, H. Nara, H. Mukaibo, T. Momma, S. Passerini, T. Osaka, "Characteristics of IPN System made of PEO-LIX Complex and PS as the Electrolyte for Lithium Secondary Battery", Electrochemistry, 71(12), 1182 (2003).

・ H. Nara, T. Momma, T. Osaka, "Feasibility of an interpenetrated polymer network system made of di-block copolymer composed of polyethylene oxide and polystyrene as the gel electrolyte for lithium secondary batteries", Electrochemistry, 76, 276 (2008).

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2.2 リチウム二次電池用添加剤

 前述のようにリチウム金属二次電池は,リチウムイオン二次電池の炭素系負極の10倍以上の理論容量(3860 mAh/g)を有しますが,デンドライト(樹枝)状リチウムの成長による,安全性への不安およびサイクル寿命低下の問題を抱えています.この問題を解決する一つの手法として,安定な電極電解質界面を形成し,デンドライト状リチウムの成長を抑制,リチウム溶解析出反応の副反応を抑制することが考えられます.
 そこで当研究室では,この系の電解液に対する添加剤の影響評価を行ってきました.これまでに,CO2の溶存によりサイクル特性が向上することを報告しており,現在,添加剤として硫黄系有機化合物に注目し,リチウム金属の溶解析出反応への影響評価を行っています.

関連論文

・ T. Osaka, T. Momma, Y. Matsumoto, Y. Uchida, "Surface characterization of electrodeposited lithium anode with enhanced cycle ability obtained by CO2 addition", J. Electrochem. Soc., 144, 1709 (1997).

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3. イオン液体のリチウム二次電池用電解質への適用

 今後進むと予想されるリチウム系二次電池の高エネルギー密度化や電気自動車あるいは発電用の大型電池における電解液の役割は大きいです.リチウム系二次電池用電解液に求められる性質として,電極に対して不活性であること,イオン伝導度,耐電圧および安全性が高いといったことが挙げられます.しかしながら従来の電解液系ではさらなる高エネルギー密度化が困難なこと,引火性であることが問題となっており,新たな電解液材料の探索が活発になっていいます.そこで注目を集めている新規電解液材料のひとつとしてイオン液体(IL)が注目されています.ILは,カチオンとアニオンのみから構成され,室温付近で液体状態を示す一群の有機塩で,比較的高いイオン導伝率および熱分解温度,不揮発性,比較的広い電位窓を有するものが多く,リチウム系二次電池用電解液としての可能性をもつ電解液です.特に,ILの物性を利用した安全性の向上等,従来の電解液系を上回る電池性能を持つ可能性を秘めています.
 当研究室では,2.1項で述べたようなゲル電解質とイオン液体の融合を試み,より安全性の高い電解質の開発を行っています.
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4. 直接メタノール型燃料電池の開発

 当研究室では,直接メタノール形燃料電池 ( DMFC ) の研究を行っています.DMFCは燃料に水素ではなく保存や輸送が容易な液体のメタノールを用いていることで扱い易く,またエネルギー密度が高いなどの理由で小型化に有利な燃料電池です.液体燃料を用いる燃料電池の中で,現在までは最も酸化し易いメタノールが主流となっていますが,安全性のより高いエタノールなども燃料として検討されています.
 DMFCの構造は図4-1のようになっており,アノード(燃料電極)で燃料であるメタノールが酸化されて水素イオン,電子,二酸化炭素ができます.このときに生成した電子が外部回路を通りカソード(空気極)に移動し,水素イオンは電解質膜を透過し同じくカソードへ移動し,酸素と反応することで水ができ発電ができます.しかし,この過程で水素イオンだけではなくメタノールも電解質膜を透過してしまい,カソードで酸化されることで,燃料のロスのみならず出力低下を起こしてしまいます.
 この問題点を解決するために,当研究室では酸素還元触媒としてメタノール酸化活性能のないPdCo合金触媒を研究しており,それを用いることでDMFCの小型化に有利な特長を最大限に活用した超小型オンチップ燃料電池の開発にも成功しております.
 これらの研究内容の詳細については下記に説明があります.ぜひご覧ください.


図4-1 燃料電池の構造


関連論文

・ T. Shimizu, T. Momma, M. Mohamedi, T. Osaka, S. Sarangapani, J. Power Sources, 137, 277 (2004).

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5. オンチップ燃料電池の開発

 マイクロセンサーや,ラボ・オン・チップといったマイクロデバイスの開発が進む中で,マイクロ電源の開発が必要不可欠になっています.このような観点から,我々は微小な燃料電池をチップ上に集積する技術を開発してきました.この燃料電池の特長は,無隔膜であること(膜の体積を省略,膜とのアッセンブリが不要),大気中の酸素が利用可能であること(システムの簡略化,補器によるエネルギーロスを無くす),また片面のみに作製可能であること(部材同士のアライメント不要)であり,超微小化に有利な特長と言えます.

5.1 デザイン&発電メカニズム

 図5-1はオンチップ燃料電池を示しています.マイクロチャネルをベースとした構造であり,液体燃料はマイクロチャネルの底部に作製されたアノード触媒へと毛管力によって供給されます.アノード触媒におけるメタノール酸化によって生じたプロトンは,電解質である硫酸を含んだ燃料溶液を通って多孔質なカソード触媒へ移動し,大気中の酸素と反応することで水が生成されます.



図5-1(左) Si基板上に作成されたオンチップ燃料電池の上面図.(右)電極と燃料溶液で満たされたマイクロチャネルの断面図.


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5.2 各種アルコール燃料での作動

 我々はオンチップ燃料電池に対して,メタノール,エタノール,2-プロパノールの各種アルコール燃料の作動についての検討を行いました.また,リン酸塩緩衝液を使用して,安全な中性条件での作動についても検討を行いました.結果として,メタノールだけではなくこれら全てのアルコール燃料で酸性及び中性条件において発電が可能であることがわかりました(図5-2).これらの結果より,オンチップ燃料電池は様々な燃料溶液が使用可能であり,燃料電池の応用目的に合うような燃料の選択が可能であることが示されました.この成果は英国化学会(RSC)の学術誌Chemical Technology誌においてハイライトされました.今後,エタノールに対するPt-Sn触媒のように,それぞれの燃料に適した触媒を選択することで,システムの最適化が可能であると考えています.



図5-2 各種アルコール燃料溶液で作動させたオンチップ燃料電池の最大出力.


関連論文

・ S. Tominaka, H. Nishizeko, S. Ohta, T. Osaka, “On-chip fuel cells for safe and high-power operation: Investigation of alcohol fuel solutions”, Energy and Environmental Science, 2 , 849 (2009).

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5.3 フレキシブル燃料電池の作製

 オンチップ燃料電池を広く用いるためには,脆くコストが高いシリコン薄膜に替わる基板が必要と考えられます.このような観点から,我々は安価でフレキシブルな素材である,シクロオレフィンポリマー上に燃料電池を作製しました(図5-3).その結果,我々はシリコン上へ作製したオンチップ燃料電池とほぼ同等の発電特性を有する,曲げることのできるオンチップ燃料電池の作製に成功しました(図5-4).曲げられるという特長は非常に重要です.その理由は,このような微小なデバイスの持つ重大な欠点である壊れやすさの克服が可能という点にあります.この達成によって,将来的にはヘルスケアチップなどのエレクトロニクス機器の電源としてのオンチップ燃料電池の使用が期待されています.この成果はScience誌においてハイライトされました.



図5-3(a) ポリマー上に作成されたオンチップ燃料電池の上面写真. (b) シクロオレフィンポリマー上に作製されたオンチップ燃料電池のリアルカラーコンフォーカル顕微鏡による画像.上が金の蒸着前,下が金蒸着後. (c) オンチップ燃料電池の曲げ試験.




図5-40.5 M 硫酸を含む2 M メタノール溶液を使用した発電特性評価


関連論文

・ S. Tominaka, H. Nishizeko, H. Shinohara, J. Mizuno, and T. Osaka,“Fabrication of On-Chip Fuel Cells on Polymer Substrates”, ECS Transactions, 25 (1), 1961 (2009).

・ S. Tominaka, H. Nishizeko, H. Shinohara, J. Mizuno, and T. Osaka,“Bendable fuel cells: on-chip fuel cell on a flexible polymer substrate”, Energy & Environmental Science, 2 (1), 1074 (2009).(“A Distinct Take on Flex Fuel”, Editors’ choice, Science, 325, 132 (2009))

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5.4 脱合金化法によるメソポーラス触媒の開発

 現在,オンチップ燃料電池の出力は数μW程度を達成していますが,一般的なDMFCの触媒層と比べて1/50程度に制限されているカソード触媒表面積を改良することで,性能向上の余地があると考えられます.
 そこで,我々は大きな表面積を得るためにメソポーラス金属触媒に着目をしました.メソポーラス構造はナノ粒子と同レベルの大きな比表面積を有する材料ですが,薄膜とした場合,その深部までの物質供給の悪さが懸念されました.そこで,我々はメソ細孔とマクロ孔から成るメソポーラスデンドライト構造を考案いたしました(図5-5).そうすることで,細孔の深さが短くなり,孔内における酸素の拡散律速が軽減でき,メソポーラスデンドライト構造ではより大きな電流を得られると期待できました.
 その合成には,電析法と脱合金化法を用います.電析法により微細電極上に選択的に触媒層を形成し,脱合金化法によってマクロな形態を保持したメソ多孔体とします(図5-6).オンチップ燃料電池においては,電極が微細であることから従来の触媒インクの塗布による触媒層形成が困難なため,電析法を用いて作製できるメソポーラスデンドライト構造は非常に有効な触媒層と言えます.また,電析法と脱合金化法は,電気化学的条件によって組成や構造の制御が可能である点も魅力的です.
 現在,従来のオンチップ燃料電池の触媒層に比べて一桁大きい表面積を得ており,今後,組成や構造の最適化によって,オンチップ燃料電池の出力密度を大きく向上させる触媒層が形成できると考えております.




図5-5 メソポーラスデンドライトPd-Co合金触媒の断面SEM像




図5-6電析法と脱合金化法による新規構造触媒層の作製


関連論文

・ S. Tominaka, S. Ohta, T. Momma, T. Osaka,“An Electrodeposited Pd-Co Cathode Catalyst for a Microfabricated Direct Methanol Fuel Cell”, ECS Transactions - Washington, DC, Vol.11

・ S. Tominaka, T. Momma, T. Osaka,“Electrodeposited Pd-Co catalyst for direct methanol fuel cell electrodes: Preparation and characterization”, Electrochimica Acta, 53 (14), 4679 (2008)

・ S. Tominaka, Y. Nakamura, T. Osaka,“Nanostructured catalyst with hierarchical porosity and large surface area for on-chip fuel cells”, J. Power Sources, 195 (4), 1054 (2009)

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6. 交流インピーダンス法を用いたPEFCカソード触媒層の劣化状態の解析

 自動車用や定置用の電源として技術開発が進められている固体高分子形燃料電池(PEFC)の今後解決すべき課題の一つとして,耐久性の向上が挙げられます.耐久性を向上させるためには燃料電池の性能低下に影響する劣化要因と劣化メカニズムを解明することが不可欠となっています.しかしながら,電極内部の構造変化の検出が難しいことや,評価する際にMEAの解体が伴うことが多い等の問題点があります.
 そこで,当研究室では非破壊かつin-situで評価を行うことができる交流インピーダンス法に着目し,新たな解析手法の確立を目標にMEAの劣化状態の解析を行ってきました.直接メタノール形燃料電池(DMFC)触媒層の構造を考慮して(1次細孔と2次細孔を区別して)作成した等価回路をPEFC用に改良したものを用いて,MEAの劣化状態を評価しています.その結果,当研究室が提案するインピーダンス解析手法により,劣化前後におけるMEAの詳細な解析が可能となり,カソードでの劣化進行度が推定できるようになりました. 関連論文

・ T. Osaka, T. Momma, S. Tominaka, "New Proposal of Evaluation Method for DMFC Catalyst Layers by Means of Electrochemical Impedance Spectroscopy", Chemistry Letters, 35 (1), 10 (2006)

・ S. Tominaka, N. Akiyama, T. Momma, T. Osaka, "An Impedance Analysis on Properties of DMFC Catalyst Layers Based on Primary and Secondary Pores", J. Electrochem. Soc., 154 (9), B902 (2007)

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